| 聖地の建築巡礼 - 北インド |
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この連載の第 6回まで、1年間にわたって インドのジャイナ教の建築の紹介をしてきた。 おそらく ジャイナ教などという宗教については、名前も知らなかった という方が大部分ではなかったかと思うが、連載を読んでいただいた方には、ジャイナ教という宗教と その建築についての、おおまかな理解を えていただいたのではないかと思う。
それでも実際にジャイナ教の寺院建築の写真が毎回掲載されるにつれて、そんな宗教が本当にインドに存在するのだと納得されたのではないかと思う。 それをもっと確実なものにするために、今回と次回の 2回にわけて、ジャイナ教の聖地 (ティールタ) の巡礼を、誌上で行ってみることにした。 <ティールタ> の原義は 「川の浅瀬、渡し場」 であって、無常の世界から永遠の世界への入り口をさし、「聖地」 や 「巡礼地」 を意味するようになった。 そのティールタで人々を導いて渡してくれる人が <ティールタンカラ> (魂の救済者) である。 ジャイナ教の聖地は、無数にある。 およそジャイナ寺院さえあれば、そこはティールタであるのかもしれない。 " SHREE 108 JAIN TIRTHA DARSHANAWALI " という本があって、西インドを中心とする 108ヵ所のジャイナ教の聖地を紹介している。 しかしそこに掲げられた寺院の写真を見ると、玉石混交。 当然のことながら、宗教的な聖地に、必ずしも見るべき建築があるわけではない。 そこで、私が実際に訪れた聖地の中から、建築的に価値のある 48カ所を選び、北と南の 2回に分けて、聖地の建築案内をしようと思う。 ジャイナ建築が最も発展したのは北インドに含まれる西インドであるから、次回の南インド編の方が聖地の数が少ないので、その代わりにできるだけ多くの参考文献を掲げて、ジャイナの宗教と建築についての理解に資する予定である。 ジャイナ教の建築の主要なものはすでに紹介してきたので、それらが重要であるからといって、ここでは特に大きくは扱わず、その他の聖地と同列に並べる。 しかしながら、それでは個々の寺院の建築的重要度がわかりにくいし、また実際にそれらをインドに訪ねようとする方にとっても不親切ということになるだろう。 そこで、すべての聖地とその寺院を、「建築的魅力度」 に応じて (ミシュランのガイドブックのように) 1つ星から 4つ星まで等級をつけることにした。 初心者は 3つ星以上の寺院を、旅なれた人なら 2つ星の寺院まで訪ねてほしい。 けれどもインド建築を見て歩くのに、ジャイナ寺院ばかりが素晴らしいと言う気は もうとうない。 それだから、地名についている星の数は、ジャイナ以外の建築も含めたうえでの総合評価であることをお断りしておく。 各寺院の説明は、紙数の関係でごく簡略なものとなってしまったが、なるべくそこへの行き方をも書き込むようにした。 地名の配列の順序は東から西、北から南への順。 地名のアルファベットのあとのカッコにあるのは州名の略号である (地図参照)。 建物名のあとの (+S), (+T), (+G)は、それぞれスタンバ (記念柱)、トラナ (鳥居のような門)、ゴプラ (多層の門楼) が付属することを示している。
![]() カルカッタは英領時代に発展した都市なので、あまり古い建物はない。 市内にはジャイナ寺院が 2つあり、それぞれディガンバラ (空衣派) とシュエタンバラ (白衣派) に属していて、建築的に見るべきは後者のシータラナータ寺院である。 ヨーロッパ風の庭園構成の中に建つ近世の寺院は、インテリアがガラスと鏡のモザイクで飾られ、いささかジャイナ商人の成り金趣味を感じさせる。
![]() ビハール州は仏教とジャイナ教が生まれた地方なので、仏陀とマハーヴィーラの足跡が交錯している。 二人は同時代の人であったが、実際に出会ったことはないらしい。 仏跡の一つのヴァイシャーリーはまた、マハーヴィーラの生誕の地でもある。 古いものは何も残っていないが、生誕の碑が建てられ、近くにはジャイナ教研究所もある。 たいていのガイドブックにはパトナーの町から 40kmと書いてあるが、実際には 80kmあり、車で 2時間かかる。
パーワーとも呼ばれ、マハーヴィーラが涅槃にはいった地、つまり入滅地である。 仏教大学の遺跡のあるナーランダーから 25kmほどの所にある。 大きな池の中央に白大理石の記念堂が建てられていて、橋を渡ってアプローチするのは、シク教の本山アムリトサルのゴールデン・テンプルに似ている。 建築的にもイスラムの、それもムガル朝の宮殿建築の影響が強い。 建設年ははっきりしないが、19世紀のことと思われる。
![]() サンメタシカラ (Sammetashikhara ) とも呼ばれるこの山は、多くのティールタンカラ (祖師) が涅槃に入ったとされるなどの伝説に満ちた、ジャイナ教有数の聖地である。 そのうちの一人、第 23代ティールタンカラのパールシュヴァナータに 名前が由来している。 長く伸びる峰に点々と寺院が連なるが、いずれも近代のものであって、建築的な重要度は低い。 カルカッタからガヤーへ汽車で行く途次、パーラスナート駅から 車で山のふもとまで行く。 1泊して 往復 2日間の行程だが、交通・宿泊とも不便なので、かなりの覚悟がいる。 山登りには ドリー (駕籠) を やとうこともできる。
![]() オリッサ州の州都ブバネーシュワルから わずか 6kmのところに、道路をへだてて二つの丘があり、20をこえる石窟寺院がある (ギリは山の意)。 簡素だが、最初期の石窟寺院として重要であり、古代にはオリッサ地方にジャイナ教が栄えていたことを示している。 最も重要なのはウダヤギリのラーニー・グンパ (第 1窟)で、僧室の入り口が並ぶ壁面には、サーンチーのそれにも似た古代彫刻が見られる。
![]() インドの最も有名な観光地の一つだが、汽車とバスを乗り継いで行くのはあまり楽でないので、たいていの観光客が アーグラかヴァーラーナシーから飛行機で行く。 中世に栄えた町も今はひっそりとした寒村で、ただ彫刻で満ちみちた寺院群のみが過去の栄華を伝える。 西のヒンドゥ寺院群とは離れて、東群を形成するのがジャイナ寺院群である。
![]() 寺院が建てられ始めたのは 8世紀ごろに溯るらしいが、現存の寺院はほとんどが 18世紀以降のものである。 下の寺院群と池を ぐるりと囲む丘の上に、白塗りの寺院群が建ち並ぶ眺めはピクチュアレスクであるが、個々の寺院の建築的な質はあまり高くない。 カジュラーホの南方約 140kmの所にあり、ナチュナー、ティガワーとあわせて車で 2日間の行程だ。
![]() 大きな町の上に聳える丘全体が中世の城郭となっていて、城内には多くの寺院や宮殿が残っているが、ジャイナ寺院はない。 その代わりに丘の各所に、磨崖仏ならぬ磨崖ティールタンカラ像が数多く彫り出されている。 最大のものは高さ 19mに及び、多くが建築的な枠取りをされている。
![]() グヮーリオルから汽車で南下すると 60kmぐらいの右手に、白い寺院が幻想的に建ち並ぶ丘を車窓から見ることができる。 ここには 100近い寺院群が密集していて 「寺院都市」 の名にふさわしい。 起源は相当に古いが、寺院の多くは近世のもので、イスラム建築の影響がいちじるしい。 約 40km離れたジャーンシーに宿をとって、ダティアとオルチャーの城郭宮殿とあわせてまわるのがよい。
![]() ジャーンシーの南約 100kmのラリトプル駅から、車で南西に 32kmばかり行くと、山のふもとに 6世紀のヒンドゥ寺院があり、山の上にはジャイナ寺院群が建ち並ぶ。 そのヒンドゥ寺院の壁面はヴィシュヌ神などの素晴らしい物語り彫刻で飾られているのに、ジャイナ寺院群のほうは相変わらずパターン化したティールタンカラ像ばかりがおびただしく造られていて、両宗教の違いをきわだたせている。
![]() ジャイプルの南 11km、サンガーネルのオールド・タウンに、ごく小さいながら密度高く仕上げられた寺院がある。 階段をあがって、列柱で囲まれた小さな前庭を抜け、細かく彫刻された扉口をくぐると、再び列柱で囲まれた小スペースの中央に開放的な祠堂が建つ、といった珍しい構成をしている。 白大理石の華麗な祠堂にはティールタンカラ像が祀られ、軒の各方杖には、村人のような人像が彫刻されている。
![]() ラージプートのビーカーネル王国の首都には、独特の商家が並ぶ興味深いオールド・タウンが残り、その中に寺院の建ち並ぶ地区がある。 ジャイナ寺院はいずれも内部が彩色され、壁画が描かれている。 パールシュヴァナータ寺院のガルバグリハでは、ガラスや金、色石のモザイクによる柱や台座が、チャトルムカ (四面) のティールタンカラ像を取り囲み、類のない華やかなインテリアを作る。
![]() ジョードプルから夜行列車で 10時間行くと、タール砂漠の真っただ中に驚異の中世都市ジャイサルメルが忽然と現れる。 城内には 7つのジャイナ寺院群が、そして町から離れた砂漠の中にも 2つの素晴らしい寺院がある。 市内の宮殿やハヴェリー (邸宅) 群、城郭、郊外の墓園などを含め、建築家だったら一度は訪ねてみたい町だ。
![]() ここには 8〜9世紀のヒンドゥ寺院が多く残るので、建築史の上で重要である。 やや遅れて建てられたのがマハーヴィーラ寺院で、近年の修復によって整然とした境内を取り戻した。 周囲に建ち並ぶ小祠堂にも繊細な彫刻が見られる。 ジョードプルの北方 65kmの地にあり、途中のバルサマンド、マンドールとあわせて日帰りができる。
![]() ジャイプルからアーブ・ロードへ抜ける鉄道のラーニー駅で降り、車で 8km行った静かな町に建つ。 大規模ではないが、門の両脇の象さんが子供っぽく彩色されているほかは、すべて白大理石でカッチリと造られている。 内部は、本尊までの奥行きの長さが印象深い。 境内にいた人たちが、隅から隅まで親切に案内してくれて気持がよかった。
![]() ジャイナ建築としてばかりでなく、インド建築の最高傑作のあるラーナクプルは、町でも村でもない山奥の地で、ラーンプルともいう。 アーブ山から行くのなら鉄道のファルナ駅で降りてバス 1時間半、ウダイプルからなら朝早いバスに乗れば昼過ぎに着く。 今は州政府が経営するトゥーリスト・バンガローがあるので、宿泊にも困らない。 ここにはアーディナータ寺院と同時代の小寺院が 3つ建っていて、同じように彫刻で飾られている。
![]() 平原からすっくと立ち上がる細長い山全体が、ラージプートの悲劇の城址となっている。 寺院や宮殿、塔が散在し、一日散策していても飽きない。 名誉の塔のほかに、ジャイナ教ではサートビース・デオリ寺院< (15世紀) と、小さなチュリンガーラ・チャウリ寺院 (1456年) がある。 ウダイプルからバスで 3時間半。
![]() 古建築であっても、文化財としてよりも巡礼地として賑わう寺院がインドには多い。 これもその一つで、参道は浅草のように両側に店が並んでいる。 寺院本体にも付加物が多く、建築家には少々目ざわりである。 折あしく雨に降られて、あまりよい写真も撮れず、しかも内部は撮影禁止であった。 ウダイプルの南方、ドゥンガルプルから約 40km。
![]() 最も有名なジャイナ寺院群で、その白大理石の内部彫刻の繊細さは形容を絶する。 アーブ山を見ないうちは結構と言うな、というところ。 鉄道駅のアーブ・ロードからバスまたはタクシーで 27km山を登る。 町は英領時代にヒル・ステーション (高原の避暑地) として発展したので、ホテルがたくさんある。 寺院群があるのは車でさらに 5kmほど登った静かな所だが、最近はこの近くまで町がスプロールしてきた。 現在は境内の写真撮影が禁止されている。
![]() この地方には大理石の石切り場が多く、デルワーラ寺院の石はクンバーリアーから運ばれたという。 ここの寺院群もすべて白大理石で魅力的な内部空間を創り出している。 スタイルはアーブ山と同じだが、ここの寺院を年代順に見ていくと、西インドのジャイナ寺院の発展プロセスがよくわかる。 特に入口まわりが立体化して、ジャイナ教に特有の空間構成と光の導入を達成していく経過が興味深い。 アーブ・ロード駅から車で東南に 25km。 ここから さらに南下してターランガに行くことができる。
![]() かつて白く塗られていたのが、近年の修復によって見事な石の肌を現した。 北方型のなかでも典型的な西インド様式を示し、シカラ (搭状部) も壁面も細かく彫刻されている。 内部も力強い造形を見せているが、西インドの多くのジャイナ寺院と異なって、建築家たちのエネルギーは内部よりも外部に注がれたと言えるだろう。 クンバーリアーからも シドプルからも 55kmの、静寂な山中に建つ。
![]() クンバーリアーの南方約 60kmのイダルの町から、東北へ車で 40km行った山中にヒンドゥ教のサルネーシュワラ寺院があり、そこから村人の案内でさらに山の中に分けいると、この寺院がある。 訪ねるのは容易でなく、今は使われていない寺院であるが、廃墟の美を好む人にはこたえられない魅力をもっている。 まるで ピレネーやアルプスの山奥に建つロマネスクの聖堂のようだ。
![]() 11〜12世紀にソーランキー朝の首都アンヒルワーダであったパータンは、今ではローカルな小都市に過ぎないが、最も大きなステップ・ウェル (階段井戸) があることで知られる。 町の中には、あまり古くはないが 形式の整ったジャイナ寺院がある。 シカラが林立する白亜の寺院は、朝日に燦然と輝いて まばゆいほどである。 シドプルからもモデラーからも約 35km。
![]() グジャラート州の州都 アフマダーバードは イスラム建築の遺産で満ち溢れるが、ジャイナ教徒の商人の活躍する町でもあるので、ジャイナ寺院の数も多い。 その中で寄進者の名前をつけたこの寺院が規模も大きく、ソーランキー・リバイバルによる彫刻・工芸の粋をこらしている。 最近その境内に、チトルガルにならったスタンバが建てられたが、その技術水準はずいぶんと落ちてしまった。
![]() その昔、貿易港として栄えた町の古い寺院。 平地の寺院であるが、階段で次第に奥へ上っていく立体的な空間構成が魅力だ。 イスラム的な付加物と彩色を取り除けば、もっと純粋なジャイナ建築となることだろう。 内部撮影禁止。 ブジの町に泊まって、車で 80kmの道のりを往復する。
![]() バヴナガルから 50kmのパーリターナに宿をとって、夜明けに山のふもとへ行き、山を登ること 1時間半、3つの峰に建ち並ぶ寺院都市の眺めに息をのむ。 足の弱い人はドリー (駕籠) をやとって登る。 今は山の上に事務所ができ、そこで写真の許可を取れるようになった。 ここは観光地ではないが、ジャイナの最大の巡礼地なので、パーリターナの町には大きな ダルマシャーラー (巡礼宿) がいくつも並ぶ。
![]() ラジコットの南 100kmに位置するジュナーガドは、古代から近世に至る多くの遺産をかかえる。 一番古い石窟寺院はジャイナ教に属するが、ごく素朴な石窟の段階で、ほとんど彫刻はない。 その後のジャイナ寺院はすべて山の上に建てられたので、町にはない。
![]() ジュナーガドの町からオート・リキシャで山のふもとまで行き、断崖絶壁の石段を 4,500段、2時間以上かかって登ると、脚がガクガクになる。 ドリーもあるが、ここは料金が高い。 朝の涼しいうちに登ろうと 8時ごろに行くと、驚いたことに、まっ暗なうちに登山した巡礼者たちが早くも続々と下山してくるのだった。 12時ごろには、寺院都市はゴーストタウンのようにひっそりとしてしまうのである。 |