ケーララ地方のヒンドゥ寺院 |
神谷武夫
( ヴァイコムの シヴァ寺院 ) ( ペルヴァナムの シヴァ寺院 ) ( パヤヌールの スブラマニヤ寺院 )
円形(楕円形) 方形 前方後円形
ケーララ寺院の平面の3タイプ
(From H. Sarkar: An Architectural Survey of Temples of Kerala, 1978, A.S.I.)
まずケーララ州の伝統的なヒンドゥ寺院の本堂(シュリー・コーヴィル)の平面形であるが、これには3つのタイプがある。円形プラン、方形プラン、そして前方後円形プランである。このうち、よそには見られない円形プランが多いのは ケーララの特色で、時にはそれが楕円形のプランにもなる。ヴァイコムにあるシヴァ寺院は その一例で、楕円錐形の大屋根が架かり、銅板で葺かれている。この単純な全体像とは対照的に、壁面には極彩色の壁画が連続して描かれ、窓廻りの装飾と方杖状の木彫とがあいまって 華やかな外観を見せている。
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スリランカのポロンナルワには ワタダーゲと呼ばれる 12世紀の円堂の仏教遺跡がある。中央に小ストゥーパを祀って2列の石柱をめぐらせ、円形平面の壁で周囲を囲い、さらに そのまわりに石柱が建ち並ぶ。上部は失われてしまったが、おそらく木造の円錐形屋根が架けられていたのであろう と考えられる。
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トリチュールの 有名なヴァダックンナータ寺院には 三つの祠堂が並んでいて、その内二つが円堂、もう一つが方形プランの堂である。方形の堂の前面には しばしば拝堂(ムカー・マンダパ)が突き出し、切妻屋根が架けられる。さらにその手前には、円堂の場合も、独立した礼堂(ナマスカーラ・マンダパ)があり、これは木造の方形屋根を石柱が支えるオープン・マンダパである。 一方、前方後円形プランは もともと古代の仏教寺院から受け継いだものと考えられる。 アジャンターやエローラーなどの石窟寺院におけるチャイティヤ窟は だいたいこのプランである。 それが次第に南方に伝えられ、カルナータカ地方におけるアイホーレのヒンドゥ寺院などをへて ケーララ地方へもたらされたのであろう。前面の切妻部は、石窟寺院においては実際の 「チャイティヤ窓」 であったが、ここでは窓の機能をほとんど失い、木彫装飾の舞台となっている。
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聖室のまわりに繞道のない本堂は ニランダーラと呼び、繞道がまわるのをサーンダーラと呼ぶが、規模が大きくなると 二重の繞道を備えるようになる。巡拝者は礼拝行為として、これを時計回りに巡るのである。 後期の寺院では ナーランバラムの入口に 堂々たるエントランス・マンダパが建てられていて、カヴィユールのマハーデーヴァ寺院では その格天井に、彫刻のミニアチュールとでもいうべき緻密な木彫が見られる。その神像や戦士像はケーララ地方の伝統芸能である「カタカリ」の役者を連想させよう。
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壁画はコーチンのマッタンチェリ宮殿と エットマヌールのマハーデーヴァ寺院、それに パドマナーバプラムの王宮のものが有名で、いずれも 16世紀以降のものであるが、独特のケーララ様式を見せている。インドには 彫刻に比べて壁画の量が少ないが、これらは アジャンターの石窟寺院における壁画の伝統を 受け継ぐものであろう。 |