新潮社版『堀辰雄全集』全6巻 (1958年)
清楚な、飽きのこない装幀。


これらの本が「実に典雅な造本・装幀だ」というのは、本の大きさ、プロポーション、
背の白い布と表紙の青い紙、その色合い、背文字の大きさ、溝、表紙の厚さ、
見返しの紙の風合い、本文用紙の質、文字の配列、行の組み方、行の長さ、
余白の大きさ、扉の紙、著者の写真ページとそのカバー薄紙、それらすべてが 完全に
調和がとれているということです。 そこには余分なものがまったく無い。
清潔さと潔さと、それは堀辰雄の文学を 全き純粋さで表現している。
今までに手にとった和書の中で、私の最も好きな造本、装幀の本です。



『堀辰雄全集』第3巻の 淡いクリーム色の本扉。各巻、この後に著者の写真。
見返しの紙は、細い繊維を散らした、ごく淡い水色のミューズコットン。


第2巻の『風立ちぬ』の扉


『風立ちぬ』の「序曲」
右ページに ポール・ヴァレリーの詩句『海べの墓地』の最終スタンザから、
Le vent se lève, il faut tenter de vivre.  PAUL VALÉRY
「風が立つ、生きようと 試みなければならぬ」と直訳されるところを、
「風立ちぬ、いざ 生きめやも」と、堀辰雄は 文語調に訳した。


第3巻の『かげろふの日記』の扉


第4巻の小品、『木の十字架』


月報の第1号(1958年6月)に、福永武彦が「第一巻解説」の中で 次のように書いている。

今度の新版全集は、普及版といふことになっているが、元版の七冊本とは趣を異にしている。
というのは、名前は全集でも、謂わゆる断簡零墨(だんかん れいぼく)までを収めた全集ではない。
元版が 専門的な読者を対象としたのに対して、これは 堀辰雄が自分の作品として認める(と 編集の
僕らが推察した)もののみを集め、どんな種類の読者にも向くように という考慮が払われている。