| INDO no KENCHIKU |

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私が初めてインドを訪れたのは, 今から 20年も前のことである. それまでは建築に限らず, 文化について思いをはせる時には, 常に日本と欧米を対比させ, 世界を二元論的に眺めていた. まるで世界が, 欧米と日本だけでできているかのように. それは私一人の話ではなく, たとえば文学であれば, 「世界文学全集」 という名の西洋文学と, 「日本文学全集」 との 2本立てであったし, 絵画であれば, 「世界の名画」 という名のヨーロッパ絵画と, 「日本の名画」 との 2本立てであって, それ以外の諸国の文化は, まったく無視されていた. そして 「世界」 という言葉は, 「欧米」 を意味していたのである.ところが 3ヵ月ばかりインドを旅してみると, そこには日本とも欧米とも, まるで異なった高度な文化が存在したことがわかり, しかも行く先々で出会う, 独特な建築の姿に, 大きな衝撃を与えられたのだった. それ以来, 世界の本当の姿を知るために, 各地を旅してまわり, 未知の建築文化を訪ねるにつれ, 日本もヨーロッパも, 世界のさまざまな文化の一つにすぎないと悟るに至った. とりわけ目を見はったのは, 広大なイスラム圏であって, 各地の先行文化と融合して, 地域ごとの変化を生みながら, しかし全体として, 確固たる 「イスラム建築」 を打ち立てている姿は, 驚異的であった. それでも私の中心的な探訪の地はインドであり続け, 今までに 12回旅をして, 一回あたりの平均日数は 45日なので, 合計で 540日もインドおよび周辺国を歩きまわったことになる. その半ばまではインドの刺激を求めての旅であったが, ある時から, インド中の主要な建物の写真を, 全部自分一人で撮影してしまおうという, 無謀な決心をしてしまった. 寒村や山奥にも足をのばすだけでなく, 同じところにも 2度 3度と行っては写真を撮りなおして, 最終的にスライドボックスに整理したスライドの数は, インド国内で 1万 7,000枚, 周辺国までいれると 2万枚におよんでいる. 撮影した建物の数は 2,000を超えているだろう. 建築写真であるから, いつも三脚とあおりつきレンズを携行して, じっくり撮影しようとするのだが, インドではそれが容易なことではない. 田舎の町や村は旅してまわること自体が困難な上に, 撮影をめぐるトラブルはしじゅうであり, 時には警察や軍に連行されたりもした. それでもこの 20年のあいだに, 日本人の眼が次第にアジアに向けられるようになり, 私が撮りためた写真が, 日の目を見るようにもなった. プロの写真家でもない自分が, このように豪華なカラー写真集を, 出版することになるとは, 思いもよらないことだったが, 南アジアの偉大な建築文化, を少しでも日本に紹介したいという願いが, 少しづつ叶えられることになったのは, 大きな喜びである. 〈悠久のインド〉 といわれた国も, 20年の間にはずいぶんと変わったし, 近年は解放経済のもとで, 日本との関係も深まりつつある. 日本人がインドを訪れたり, その文化に触れたりすることも, 多くなることだろう. 本書がインド文化の理解のために, いささかなりとも役立つことができれば, 幸いである. 出版に協力して下さった方々, そしてインドで親切にしてくれた多くの人々に, 心から感謝したい.
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