LILAC HOUSE in HIRATSUKA

ライラック・ハウス

設計=神谷武夫建築研究所



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1 : 敷地の道路側に既存家屋があるので、玄関へのアプローチが唯一の外観である。
2 : 普段は見られない、庭を含めた全景を高所作業車から撮影。
3 : 居間と食堂を一体化した広々とした空間。右側に庭の眺めが広がる。
4 : 食堂の曲面壁には造り付けのベンチ、上部吹抜けには内倒し障子をつけた。

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ライラックはフランス語ではリラと言うが、その語源はサンスクリット語のニーラであるという。 春になると芳香とともに青紫色の清楚な花を咲かせる。 建主の経営するビューティ・サロンはシャンソンの香りを伝えるライラックという名であるので、その自邸もライラックをテーマとした。 外壁とパティオの床には青紫のタイルを貼り、玄関前にはライラックの樹を植えている。

鳥瞰図


所在地: 神奈川県平塚市夕陽ヶ丘 / 設計: 神谷武夫建築研究所 / 設計期間: 2000年 3月〜9月 / 構造: 須賀設計事務所 / 設備:三共設備設計事務所 / 電気: 山崎設備設計事務所 / 工事期間: 2000年 10月〜2001年 6月 / 施工: 馬渕建設 / 鉄筋コンクリート造 2階建 / 敷地面積: 220u / 延床面積: 174u / 写真撮影: 斎部功 / 受賞 : 第 47回 神奈川建築コンクール 住宅部門 奨励賞


   

ベンチと花壇とアルミ・スクリーンで囲まれたパティオを、屋上と居間から見る。


【 設計要旨 】

平塚の海岸近くに、老朽化した木造住宅を鉄筋コンクリート造の住宅に建て直すこととなった。 平塚市は道路も広く整備されていて、快適な住宅地を提供している。 東京に比べれば敷地もずっと広やかである。
しかし、ここには住宅が 2軒建っていて、道路側の住宅はそれほど古くないので残し、奥の家のみ建て替えることとした。 すると、2軒の家の駐車場を兼ねたアプローチ通路からしか外観を見ることのできない家となる。 したがって設計の主眼点は外観よりも内部空間と、敷地先端部の南側につくる庭との関係に置かれた。 それは中庭 (パティオ) を中心としたイスラム建築的な、内向きの建築と言える。

平面図

取り壊した古い家は道路と平行配置であったので、そのテラス戸の先には隣家の壁面が目の前にそそり立っていた。 また敷地の形が不整形なので、南側に部屋を突き出し、おまけにそこを 2階建てにしていたので、全体に陽あたりが悪く、眺望もよくない家であった。
そこで新しい家は軸をずらして、敷地の一番奥行きの深いところに中心軸を向けることにすると、それがほぼ真南に面するので、陽あたりも眺望も一番よいことになる。 その場合の問題は、建物が道路側の既存家屋と平行にならないことで、敷地境界線とのなじみも悪く、平面計画がたてにくい。

一方、アプローチ部分には車を前後に 2台置けるようにしたいという要望があり、それを満たすには玄関位置を奥へ引っ込めねばならない。 それはますます建物の配置をむずかしくさせた。
さらに考慮すべきことは道路側の既存住宅との関係で、あまり近くに寄せれば既存住宅の採光、通風が悪くなるし、あまり離せば新築住居の庭が狭くなる。

これらの問題を一挙に解決する案として浮上したのが、円形プランであった。 これなら軸線は自由に変えて、敷地の先端に向けることができるし、今回の不整形な敷地形状ともなじみが良い。
また、必然的に玄関は奥へバックして駐車 2台を可能にさせるし、反対側は三角形状のサービスヤードとなる。 これによって既存住宅へは朝陽と夕陽があたり、平行配置よりも圧迫感が少なくてすむ。 新築住宅の居室は 1、2階ともすべて南面して陽あたりがよく、庭の眺望がえられることになった。

        
玄関アプローチ夕景    南側から見た全景    泉水のあるパティオ

建物本体は円筒を南側で切断した形となるが、この切断部を延長して敷地の形にあわせ、アルミのスクリーンを半円形にまわすことにした。 このスクリーンの外側を、庭の背景となる背の高い緑とし、内側を 「囲われた庭 (パティオ)」 として、イスラミックな幾何学庭園とした。
円弧の中心を 「泉」 として白大理石の水盤を置き、その周囲に御影石のベンチをまわし、ベンチとアルミ・スクリーンの間が植え込み花壇となる。 気候のよい時には、ここでお茶を飲んだり、バーベキュー・パーティーをしたりすることができる。
居間からは、このパティオの眺めを最大限楽しむべく、正面に大ガラスを嵌め、その左右を開きガラス戸として庭との一体化をはかった。

居間と食堂とはひと続きである。 面積の節約のために、一番奥を食堂の造りつけのベンチとして (庭のベンチと対応している)、特注の大テーブルを置いた。 予備の椅子を二つ、テーブルの短辺がわに出すと、総勢 11人の会食ができる。
ペンチの真上は吹き抜けていて、2階の諸室と声をかわせる。 上からそっと、下の客を観察することもできる。 吹き抜けの真上はトップライトとなって青空が見えるので、薄暗くなりがちな 2階中廊下がたいへん明るく、さらに 1階の食卓に光を投げかける。
居間と食堂には床暖房を設置しているが、それでも真冬は吹き抜けから暖気が逃げていくので、その時は吹き抜けの障子を倒して空気を遮断しながら、障子を通した柔らかい天井光を得ることができる。 このベンチに座るのが、家中で一番居心地のよい場所となった。


断面図

この家で外観として人が目にする唯一の場所が、玄関へのアプローチである。 青紫色のタイルに、淡い色のストライプをつけた曲面壁が直線状の塀に連続し、両者にはさまれた所にライラックの樹を植えた。 この樹がこの家のシンボルであるが、しかしライラックは華奢な樹で、大きな樹にはならない。

そこで建築上のアクセントを、建物全体と親子のような円筒形を張り出させ、玄関の庇を釣る構造を兼ねさせて造形した。 この半円形の突出部は乳白のポリカーボネートで囲われ、ステンレスのフレームとともに印象的な姿をしているが、実はこれは物干し場の目隠しスクリーンなのである。
この内側の物干し場は透明なポリカーボネートの屋根をもち、円筒下部のパンチング・メタルから屋根の浮かし部分へと外気が抜けるようになっている。 夕方になると、円筒の内部に釣られた電球が自動的に灯り、帰宅する家人を暖かい光で迎え、また留守の時にも在宅の印象を与える防犯効果をねらっている。

   
左 : トップライトが 2階の中廊下を明るくすると共に 1階の食堂に光を落とす。
右 : 大ガラスの外にパティオの泉水がうかび上がる居間の夜景


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