SASKIA & SMALL ART WORKS

サスキアの逃走劇と、小型の立体造形群

神谷武夫

サスキア

カーテンを這い登ったは 良いが、
本棚の上から、恐くて降りられない サスキア

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サスキァの 逃走劇

 私の部屋は東向きなので、午前中は陽が当ります。サスキア に日光浴させるために、ケージを大テーブルの上から窓際の床に移します。サスキアが入った状態のケージの重さは4.5キロぐらいあるので、少々不安定な腰つきでケージを移動させたので、扉のフックがはずれて、少し開いてしまったことに 気が付きませんでした。机に向かっていて、ふと上を見ると、前面の本棚の上を リスが歩いています。サスキアはケージから脱走すると、窓のカーテンを這い上がって 天辺まで行き、カーテンレールの上や、隣の本棚の上を歩いたりしていたのです。シマリスを飼っている人なら、へやんぽ の度に見ているでしょうが、私が昔 飼っていたリスも、しょっちゅう カーテンを駆け上がって カーテンレールの上を歩いていました。
 人間は梯子(はしご)を上り下りするのに、いつも頭を上にしていますが、リスが 樹木やカーテンを降りる時には、逆立ち状で下ります。後足の爪が発達しているので、それを樹皮や布に引っかけながら、人間にはできないことを するのです。ところが 生後1ヵ月半のサスキアは、まだ足爪が十分に伸びていないのか、それができません。まして2メートルの高さから 飛び降りる などという芸当は、恐くて できません。それで、長い本棚の上を ウロウロ歩き回ったり、下を眺めながら 途方に暮れたり していたのです。

シマリス

逆立ち状で壁を降りる シマリス(「シマリストーリー」より)
シマリスは 半樹上性なので、こういうことができる。

 この 高い所に居るサスキアを どうやってケージに戻すか、なかなか 方法が見つからないので、写真など撮っていました。それで 気が付いたのは、机の前面の本棚の上は、コンクリートの大梁(壁から連続して壁紙が貼ってある)まで 16センチしかないので 本は立てられず、音楽 CD を 30枚ぐらい 端に 並べてありますが、あとは 小さな おもちゃのような「立体美術作品」が置いてあり、リスは それらの間を歩き回っています。
 一時は サスキアが 30分ぐらい姿を隠してしまったので、本棚と壁との間に落ちてしまって、狭い所に挟まれて 身動きが取れなくなってしまったのではないか と 心配しましたが、どこに隠れていたのか、ひょっこり現れた時には ホッとしました。そこで、思いついて、ケージに引っ越しさせる前に使っていた プラ・ケースを 本棚の最上段に差し込み、その中に ヒマワリの種を まいておいたら、サスキアが この中に跳び下りたので、やっと捕獲できました。1時間半の 捕り物劇です。でも 今回は そのことも さることながら、ごく久しぶりに意識させられた、本棚の上の 小さな立体造形物たちを、昔のことを思い出しながら、以下に 紹介しておきたい と思います。

往年の 立体造形物たち

サスキア

カーテンレールから 本棚の上に移って 歩きまわる サスキア
本棚の上には 小さい造形物が並んでいて、
この左側に インドの「ワイア・マンダラ」がある。

 サスキアの右側の「ルービック キュービック」は 誰でもご存じでしょう。私がこれを買ったのは、初めて日本で発売された 1980年のことですから、今から 45年も前のことです。ルービック キュービックの生みの親は、ハンガリーの建築家の エルノー・ルービック氏で、1977年に「マジック キューブ」の名称で発売すると、ハンガリー国内で 大ヒットしました。1980年には 世界展開をするにあたり、発明者の名前を冠して、『ルービック キュービック』という名称に 変更したのだそうです。

ルービック
立方形の 『ルービック キュービック』

 ルービック キュービックは 全体が 単純なキューブ(立方体)であって、造形作品の性格は薄く、あくまでも「パズル」あるいは「ゲーム器」であって、形態を変化させることは 意図されていません。

 サスキアの左側にあるのは、私の友人の建築家、土井元昭さんが作った 試作品の 木製 積み木ブロックを使って、 私が立体造形したものです。「土井ブロック」は 10ミリ角と 15ミリ角という、大きさが2種類の立方形で、色も木目も てんでんバラバラなので、意のままの造形はできません。しかも 45度傾けて設置するのが原則なので、『コンポジション』を作るのに ずいぶん苦労をしました。

土井ブロック

「土井ブロック」を使って 私が作った『 コンポジション 』

 これを作ったのは、もう8年ぐらい前のことなので、今は もっと 洗練された「土井ブロック」の システムが 開発されているのかも しれません。


インドの針金細工、ワイア・マンダラ

 「土井ブロック」の左側には、インドの針金細工が あります。ウェブで検索すると、現在は Wire Toy Mandala(ワイア・トイ・マンダラ)とか、Folding Gold Wire Mandala(フォールディング・ゴールド・ワイア・マンダラ)とか、 呼ばれているようです。私がボンベイで行商人から買った頃には 名前など無かったのですが、本稿では、簡単に「ワイア・マンダラ 」と 呼んでおきましょう。下の写真の サスキアの左側にあるのは 古い(本来の)もので、右側にあるのは 後年の廉価版 (?) で、針金が細く、華奢(きゃしゃ)になっているのが 分かるでしょう。

インド

インドの『ワイア・マンダラ』と、サスキア (上部は、壁紙を貼った 梁)
左は、今は Thorness という所から、右は eBay で、販売されているらしい。

 古い、本来のものを買ったのは、私が 初めてインドに旅した 1976年ですから、今から 半世紀も前のことです。10個ぐらい買ったのですが、お土産として 人にあげたりしたので 私のところに残っているのは1個だけで、しかも、だいぶ へたっています。そこで、ネットで見つけた写真群を、ここに転載させて もらいましょう。   

インド

インドの針金細工の『ワイア・マンダラ』(ウェブサイトより)

 真鍮の針金を 曲線に曲げて組み合わせ、小さなビーズを 飾りに付けているだけの ものです。指との比較で、その大きさが 分かるでしょう。次の写真群は、1番が全部を平らに畳んだ姿で、あとはそれを開いて様々な立体造形にしたものです。その千変万化には 驚くばかりでした。

インド 1 インド

インド 3 インド
WIRE TOY MANDALA『ワイア・マンダラ』(ウェブサイトより)

 一瞬にして、球体にも 円筒にも 鼓にも 王冠にもなります。

 インドの どこかの 針金細工の盛んな 山地部族のフォーク・アートでしょうが、昔は ボンベイ(現 ムンバイ)を歩いていると、そうしたものを売り歩く行商人が よくいました。わずかな お金で買えるので、荷物にならない程度に 時々買っていました。中には ボンベイの街に 小さな店を構えている商人もいて、そこでの 最も良い買い物だったな と思うのは、次の 部族宗教の神像です。太陽神でしょうか。

インド

インドの真鍮細工の、山地部族民の 神像(太陽神 ?)高さ 18cm
インド好きの人でも、ヒンドゥ教の彫刻や 仏像ばかりを
見慣れている人には、思いがけない姿の像でしょう。


吉本キューブYOSHIMOTO Cube

 最後は 部族芸術から一転して、現代の日本の造形作家による、実に見事な立体造形です。
吉本キューブ(YOSHIMOTO Cube)は、1971年に 造形作家の吉本直貴(よしもと なおき 1940− )さんが考案した、立方体が さまざまに変形していく 幾何学オブジェです。立方体が8個 つながったものが、手で軽く折っていくような感じで展開し、菱形十二面体などの多面体に変形するという 優れものです。

吉本直貴  
現在の『吉本キューブ』(ウェブサイトより)

 吉本さんが個展「キューブから宇宙へ」を開いて これを発表したのは 1972年のことで、その期間中に 誰かに教えてもらって 見に行ったのか、実費で頒布されていたものを ひとつ買いました。吉本さんに お会いしたかどうかは 覚えていません。

 工業製品のようなカチッとした造形物なので、半世紀も古くなった今も、形も 仕上げも 崩れません。ルービックキュービックのように 全体がひとつの立方体になりますが、後者の各面が9分割されるのに対して、こちらは4分割です。これが 金色と 銀色の二つに分離し、それぞれが また 立方体になるのですから驚きです。しかも それぞれが 正三角形を基本とする四面体の連続となり、二つを かみ合せると 平たい直方体になったり、雪の結晶のような複雑極まる、しかも美しい星のような多面体になったり、魔術のように千変万化する 立体造形作品です。
 立方体にした時の印象がル―ビックキュービックと似ているので、模倣物と思う人もいるかもしれませんが、創作されたのは、1977年のルービックキュービックより6年も早い 1971年です。しかし ゲームやパズルではなく 純粋な造形美術作品なので、ポピュラーにはならず、「知る人ぞ知る」ことになった吉本キューブです。


吉本直貴

『ルービックキュービック』との 大きさの比較
『吉本キューブ』の方が わずかに小さい。


 1982年には MoMA(ニューヨーク近代美術館)の パーマネント・コレクションに収蔵されたのを機会に製品化されましたが、 大量生産されるわけではないので、アマゾンで商品化されたものを買うのでも、税込み 11,000円と高価なので、なお、人に知られません。でも、幾何学美術に関心のある人なら、1個は買って、部屋に置いておくべきでしょう。

吉本直貴  
『吉本キューブ』の姿(ウェブサイトより)

吉本直貴  吉本直貴

(左)昔の 吉本キューブの、 作者名の入った面
created by NAOKI YOSHIMOTO
(右)現在の 吉本キューブの、商標が入った面
Yoshimoto Cube No. 1 MoMA

吉本直貴

吉本直貴

吉本直貴




サスキア
パイナップルを食べる サスキア

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TAKEO KAMIYA
メールはこちらへ kamiya@t.email.ne.jp