| 神谷武夫先生へのインタビュー |

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1996年9月、TOTO出版より、全インドの 612の建築物を紹介した、オールカラーの 「インド建築案内」 が出版されました。 著者は、建築家の神谷武夫先生、20年間に亘ってインド建築を研究された集大成は 国際的にも高い評価を受け、2003年、「インド建築案内・英語版」 (" The Guide to the Architecture of the Indian Subcontinent " ) が、インドで発行されました。
1970年代初頭、日本の建築界で活躍する建築家の間には、アメリカやヨーロッパに留学し、設計事務所で 1‐2年間働いた後に、日本に戻って事務所を開設して、欧米の最新流行の建築物を造る ということが流行していました。 早速インドに関する文献を集めましたが、仏教の本は多いものの、建築に関する本はほとんどなく、観光ガイドブックも インド、ネパール,スリランカを一緒にした薄い本一冊のみ。 とにかくこの目でインドの建築物を見なければならないと、フロムファースト・ビルの竣工後、事務所を辞め、1975年1月に、3ヶ月の滞在予定でインドの地を踏みました。
当時一番安かったのは、エア・サイアムという タイの航空会社でした (当時は エア・インディアは高級航空会社でした)。 これに乗ってバンコクまで行き、カルカッタまでの往路を購入して、カルカッタ空港に降り立ったのですが、乞食や物乞いをする子供、悪臭、汚さにたいへんなカルチャーショックを受け、すぐに日本に戻りたくなってしまいました。
「何でも 人と同じことをしなければならない」 日本に比べ、「思いのままでOK」 というインドは、どんな格好をしてもOK、自己主張をして波風をたててもOK、「生きていること」 をまったくもって実感でき、次から次へと新しい発想が沸いてきました。
インドに史跡として現存する建築物は、古代の仏教建築、中世のヒンドゥ教やジャイナ教の建築、近世のイスラム教建築に大まかに分類されます。 インドで最も有名な建築物であるタージ・マハル廟は、イスラム教を絶対視した シャー・ジャハーン帝によって建設されました。 もっぱらペルシャの建築要素で造られた このイスラム建築は 純粋なインド建築とはいえませんが、外観を重視したがゆえに、イスラム建築でありながら 皮膜的建築であるよりは 彫刻的建築となっています。 内部空間は比較的単純で 「謎」 や 「影」 というものが無く、やや魅力に乏しく感じられます。
インド建築の代表として私が一番に挙げたいものは、西インドのラーナクプルにある ジャイナ教の 「アーディナータ寺院」 です。 内外部を装飾する彫刻の造形美は ヒンドゥ寺院のそれには及びませんが、寺院全体の壮麗さは他に追随を許しません。 それは、先ほど述べた、三つの建築形式の総合性からきています。
インドでは、「宗教」 が建築の発展に多大な寄与を及ぼしてきました。 ヒンドゥ教のお寺は、「神の住まい」 として造られています。 寺は、擬人化された神が住まう場所であり、人々がそれを礼拝し、お供えをし、もてなす場所として作られていますので、「聖室+拝堂」 という、極めてシンプルな構成をしています。 ジャイナ教から発したこの曼荼羅的プランの寺院建築は 仏教にも大きく影響を与え、バングラデシュから東南アジアへと伝わり、アンコール・ワットにまで その影響を及ぼしました。 数百年をかけて、インドから東方へ発した文化の変遷の 壮大な歴史を感じずにはいられません。
2003年 6月 25日、東京都北区にある 神谷武夫先生の建築研究所を訪れました。 インドやイスラムの建築関係の出版物で埋め尽くされた事務所の壁面から、神谷先生は、「ごく珍しい書籍」 として、今から 170年前の 1834年に出版されたという ラームラーズの著した 「ヒンドゥ建築論」 を取り出して見せてくださいました。 今から7年前に発行された 「インド建築案内」 には、神谷先生がそれまで 20年間に渡って撮影した 2万枚もの写真の中から 1800枚が選ばれ、収集した資料の中から 300枚の地図と図面が使用されています。 既に初版1万部、第二版 5,000部が売り切れ、第三版がこの春に刊行されました。
神谷先生が、仕事の合間に取り得る限りの 長期休暇を取られ、行かれたという 「インド建築行脚」 は、既に十数回を数えられるそうですが、心に深く残っていらっしゃるのは、やはり、初めてのインド旅行。
ラーナクプルのアーディナータ寺院を インドで最も優れた建築と絶賛していらっしゃる神谷先生の、その他のお薦めのインド建築は、北インドのヒマーチャル・プラデシュにある木造寺院群。 多雨で緑が多く、また複雑な地形から 観光化が殆ど行われていない ヒマラヤの山岳地帯は、他地域とは異なる文化を呈示し、建築学的に見ても たいへん興味深いのだそうです。 お好きなインド料理は、タンドーリ・チキンとバター・ナーン。 インドに行くと必ず各地で召し上がるそうです。 お薦めは コルカタのリットンホテルの ビーフステーキ。 インドでは最高なのだそう。
お好きな言葉は、
「サイの角のように ひとり歩め」 (ブッダ)
毎日心がけていらっしゃることは
インドの建築にふれることによって、それまで 欧米と日本という二元論で考えていた世界を、多元的に見るようになり、世界は多様性に満ちている という認識を深めるようになられたという神谷先生。 現在は、ご自身の研究とお仕事の他に、専修大学の非常勤講師として、芸術学と建築を教えていらっしゃいます。
19世紀の建築の理念は 「様式」、20世紀の建築の理念は 「空間」 と言われています。 |
