上野博物館(東京帝室博物館)のファサード図面 : ジョサイア・コンドル
(『ジョサイア・コンドル建築図面集 I 』河東義之編 1981 中央公論美術出版 より
この、赤白だんだらのアーチを インドのイスラーム様式だという人が多いが、それは違う。
これはビザンティン建築に起源をもち、その影響を受けたイスラーム建築(トルコからスペイン)
さらにはロマネスク建築(ル・ピュイやヴェズレー)などに見られるものであって、インドには存在しない。
コンドルの師である ウィリアム・バージェスがいくつかの計画案で用いているのに 倣ったのであろう。


   

(左)ジュナーガル城内、インド・サラセン様式の アーヌープ宮殿内部、ビーカーネル (インド)
(『インドの建築』神谷武夫 1996 東方出版 より)
コンドルのデザインは、これを引き写したのではないかと思えるほど、よく似ている。
(右)上野博物館(上の図面の1スパンを拡大)
まだ そういう名称はなかったが、「インド・サラセン様式」に特徴的な 'しもぶくれ’ の
円柱と 多弁形アーチ。しかしながら、この「しもぶくれ」円柱というのも、
イスラーム建築に起源をもつものではない。むしろ ヨーロッパの階段や バルコニーの
手摺子の小円柱のデザインが、ムガル朝の後期にインドに伝えられものであって、
ヨーロッパの影響を受けた 近世の西インドのラージプート宮殿で多用されたが、
東インドや南インドのイスラーム建築には 見られない。